イタリア フィレンツェには教会がたくさん点在し、その一つに珍しい特色を持った教会があります。
革に関係する旅なのになぜ教会に来ているの?と思われたかもしれませんが、なんとその教会は革の工房を兼ねている他の教会とは少し違った教会なのです。
なぜ革の工房は併設されているのかと伺ってみると、それは戦争孤児がこれから生活が成り立つように職業訓練をさせるために作られた場所だそうです。
時代は第二次世界大戦の後。
第一期生の写真も飾られていました。大きな渦に否応なく巻き込まれ、守られる立場でなくなった子供たち、少し恥ずかしそうに写る顔が大人と子供の間で揺れているように感じました。
いまから革を仕事にしていく少年たちを思うと、世界にはいろんなきっかけがあることを考えさせられます。
教会の中庭を進み工房への階段を登って入口を抜けると、そこは工房内で製作された鞄やバックや靴や小物が置いてある店舗になっていました。
歴史の匂いがする金装飾された箱や机やショーケースがあり、革モノたちがきれいにディスプレイされています。
店舗を奥に進んで行くと、通路の両サイドにはバッグ製作の各工程を担う職人さんたちが、製作の一端を来ているお客さんたちにデモンストレーションしていました。
お客さんのバックや革に対する質問に答えながらも、手を止めず製作作業をしています。常に見られるという環境の中で集中力を維持するのはただ作業するよりも負担が大きく、ミスもし易くなりそうですが見られていることにより職人さんたちは一層輝いているように見えました。
教会の工房内のものはすべてアンティークとして通じるくらい経年変化を遂げています。火を使うせいもあり、すすが付着しているものだから、革道具たちはさらに年期が入っているように見えます。
金箔張りに使用する判がたくさんあります。いまは装丁で使われるくらいしかお目にかかれないような希少な道具たち、箔押しは左右対称に判を入れる事が多く左右が対になるように製作されているため集めるのが大変そうです。自分もいつか欲しいです。
その場で購入してくれたお客さんのイニシャルを箔で入れるサービスもしていました。
この机では,バック製作工程の終盤となります仕上げ作業をしていました。
机は一人ずつ割り当てられていて、各工程の担当者はどの方もリズムよく作業を進めていきます。
見学している方は手際の良さにも圧倒されつつ、職人さんの頭上にある鏡にて手元の作業を見ていました。
ここは縫製室になります。工房では日本人の方も数名働いておりました。(この革を巡る旅でお世話になりましたtanakaさんもこちらで働いております。)
お話を聞くと、日本人の職人さんはいまではどの工房にも一人は居るとのことでした。
使っているミシンはアドラーミシン。ドイツのメーカーです。日本でもたまにお目にかかる機種。
バッグのハンドルのふち縫いをしています。心材を避けるために逆押えというパーツがミシンに取り付けられています。難しい作業なのに仕事が早いです。
店舗や縫製室の入っている建物から表に出て階段を下ります。降りてすぐの一階入口から中に入ると縫製前のバックの革準備(裁断や漉き)をする場所がありました。
まず目についたのは山羊革のメッシュを製作しているところでした。
切れ込みの入った革にテープ状にした山羊革を交互に重ねていきながら作っていきます。
隙間が空いてゆるゆるのメッシュにならないように、革を詰め寄せていきます。機械で作っているとばかり思っていました、自分も日本に帰ったら試してみたいと思います。
下の工房には見慣れた革機械たちがたくさんありました。
よく見ると日本で使っている機械たちとは微妙に違うので、その違いはどこからきているのかと興味がわきます。お国柄なのか、イタリア気質からなのか部品の調達の関係からなのか☆せっかく見学させていただいたので、大型機械類の紹介です。
写真は漉き機という名のもので、革の端を漉いて薄くするための機械です。日本ではニッピという漉き機が多いですが、イタリアのこの工房では「FAV」という漉き機でした。形はほぼ一緒なのですが、細部がところどころ違います。
これはバンドナイフという革の面積が大きいものを漉くときに使う機械です。(例ですが、厚さ3mmのモノを厚さ2mmにすることが出来ます)
内部ではバンド状の刃がグルグルと回り、革を漉いてくれるのでバンドナイフと言います。350mmか450mm幅まで漉けるものが日本では出回っています。
漉き機と違い、大きな工房でしかなかなか見ない機械です。
これはクリッカーという名前で、圧力をかけて同じ形を裁断するために使用する機械です。
クリッカー本体も微妙に違いますし、抜型が日本製に比べてスエーデン鋼の厚みが厚く、高さがあります。
その微妙な違いにもなにかありそうで、調べたくなります。
革準備室の奥に進み、ドアを抜けるとバッグヤードには革棚がありました。バック製作で使われる革たちが全てここに積まれているそうです。
ワニ革やトカゲ革のエキゾチックレザーや牛革に山羊革に羊革とあらゆる革があります。
全体的にカラフルな革が多いです、イタリア革は発色が良くこれらがどんなバックに仕上がっていくのかとても楽しみです。
製作の肝とも言える、型紙も少し見せて頂きました。
型紙は工房の命と言われるくらい貴重なもので、なかなか見せていただけないものですので感激です。
いろんな内容のメモ書きが、違う字で所々に書かれているのを見るとこれまでの製作改善をした流れが見えた気がして、過去のやり取りに思いを馳せることが出来ます。
長々となってしまいましたが、ぐるっと一通りの工房の見学をさせていただきました。
国が違うとこんなにも仕事の向き合い方や仕事の方法が違うんだなーと感銘を受けました。もちろんどちらが良い悪いではないお話です。
自分が知っている「職人」と言えば良いものを作るために日々修練を積み、技術を高めそれをモノに伝え販売等のPRは違う方に委ねるイメージがあります。
しかし、フィレンツェの職人さん達は洗練された技術をモノに伝えつつも、それをお客さんに繋ぐことも自分たちの仕事と考え臨む姿勢が見られました。自分たちが製作したバッグなのだから、その良さの全てを熟知しているからこそ、それは当然のように。
ただ作って終わりではなく、しっかり伝え繋げることの大切さ。
そんな自分も、良いものは黙っていても手に取ってもらえると信じている節がありました。
でもそれは作り手の過信というか思い上がりからくる気持ちで、ただ無自覚に既成のイメージの中で思考を止めているだけなのかもと思い知らされた気がします。ガツンと。
きっと良いモノを作り続ける姿勢を保ちつつ、伝えることや言葉にすることが出来ないようではこれからの作り手として楽しい未来は描けないのではと、この工房を見て回り感じさせてもらいました。ありがとうございます。
これからも自分の好きなモノ作りを追求していくためにも、生物たちが進化の過程で収斂進化を遂げたように世界の流れに耐えうるように、学び取り入れ活かすことが大切と感じました。それは世界に視点を合わせたら必須のことなんだと。
そんなことをフィレンツェの工房を見て感じました。
また頭の中ではグルグルと少しずつ何かが動き出した気がします。未来に向けての新しい試みだということだけはわかります。
少し身近に感じだした世界。技術ももちろんのこと、それに付属する力も選択しピカピカに磨いていったらどんな未来が待っているかドキドキしてきました。
はやく日本に帰って行動に移したいと思いながら、工房を後にする楽観的なshujiworksでした。