2018年から皮の勉強をしております。
皮の勉強とは、革でモノ作りをする勉強と平行しながら皮から革に変える技術を学んでいます。
より深く皮の事を知ることは、革の技術を高めるためにも必要なことかと考えました。
今回は、猟にて捕獲された日本鹿の皮を使った毛皮作りをしました。
皮革を扱うときに皮を「鞣す」という言葉を聞くことがあります。
鞣すとは「なめす」と読み、漢字は革を柔らかくと書きます。
皮(生の皮)は、鞣しという作業工程をおこなうことにより革(皮革)となります。
皮から革になるために「なめし」は必ず通る作業工程。
では、鞣しとはなにをしているでしょうか。
簡単にいうと、皮を日常的に使用できるように加工すること。
生の皮だと固くなり、腐ります。それを柔らかさを保ち、腐敗しないようにしています。
鞣しという加工を経ているからこそ手元にある革製品は、生活の身近な状況で使うことが出来るのです。
今回の鞣しは、日常的に手に入り家庭にて排水が出来る薬品を使用します。(一般的なクロムなどの重金属の薬品は適切な廃液処理が必要なため家庭では使用できません。)
タンニン(ミモザなどの木材やマメ科のサヤなどから抽出する)もありますが、手に入りにくいため今回は明礬を使用します。(タンニン鞣しについての実験済みですので、どこかのタイミングで書きます。)
明礬鞣しは、タンニンやクロムより反応が弱く、水にあまり強くありません。その点が他の鞣し剤との違いとなりますので注意が必要です。
少し脱線しますが、今回の鹿皮を毛皮を鞣す経緯について。
鞣しを学びだして7年目、猟師を初めてから5年が経ちます。
いま日本中で多くの鹿が駆除されています。
駆除された分だけ鹿皮も出るのですが、残念ながら98%近くは廃棄されています。(およそ150万頭ほどだそうです。)
皮は生もののため保存が大変です。業者さんに鞣し加工を頼むとだいぶ費用がかかります。運搬も気を使います。廃棄される理由はさまざまです。
猟、解体所、鞣し加工所、革問屋、皮革製造などに関わり学んだことで、どれだけ皮の利用が困難なのかが見えてきました。
(困難が見えた上でも出来そうなことを2018年から鞣し以外の実験を開始しています。春には完成をする予定でいます。)
もちろん勿体ない気持ちもありますが、手間やコストを考えると納得してしまうことも多々あります。ですが、せっかくの資源を廃棄するのはもったいないのは事実です。
少しずつでも無駄にならないように、自分が出来る事、知ったことを少しずつ役に立つようにカタチを調えて伝えられたらと思いました。皮と革を扱う二つの立場から。
ですので、今回は比較的手軽に出来る明礬鞣しです。鹿を獲って皮を捨てるのに躊躇してしまう猟師さんやひょんなことから鹿皮が手に入った猟師のお友達の方、今後手に入るかもしれない方の参考になればと思います。
ちなみに鹿でも猪でも工程はあまり変わりません。ただし薬品の量は、動物の皮の厚さや脂の量にもより多少の変化はいたします。
では、明礬鞣しの説明です。
明礬鞣しの歴史は古く青銅時代に遡ると言われています。ローマ人が2000年前には明礬と食塩を混ぜてアルミニュウム塩の鞣し剤を製造していたとのこと。
➀まずは原皮(鹿皮)を入手します。
皮ですが、皮になったときから腐敗が始まります。ですので、保存の方法がとても大切。
保存の方法は大きく分けて➀塩蔵(塩漬け)➁冷凍➂乾燥の3方法となります。➂は戻す作業が難しいので、➀か➁をお勧めします。
塩蔵ですが、皮についている肉や血を極力取り軽く水洗いし水を切ります。その後に皮の肉面側に塩を1Kg程度(鹿皮は4kgほど)ほど擦り込むように塗ります。そしてビニール袋に入れておきます。2日ほど経つと皮の水分が抜けて水が出てきます。出来る限りマメに水分をビニールから出し涼しい場所に置いておきます。
鞣す前に解凍、または塩抜きをします。半日~一日水につけておきます。その際に塩で抜けた水が皮に戻ります。
➁皮の裏についている肉片などを取り除く
写真の道具はセンとカマボコという道具です。丸みの付いた板の上で、刃物を使い肉片を取り除きます。出来る限り皮のみ(コラーゲン層)になるように不純物を削ります。
なかなかセンやカマボコはないと思いますので、ない場合は大き目のパイプ(ホームセンターにある灰色のパイプで径が大きいもの)と鉈(ナタ)を使うと良いです。脂が多いため怪我をしないように注意してください。刃で皮を切らないようにもしてください。(コツは刃の角度とカマボコやパイプにかける圧力です。)
だいぶ取ってしまいましたが、写真のようにこそぎ取る感じです。
革を作っている工場ですと、写真のように裏ボロ取り機といって丸い特殊な刃がついたものに圧をかけて肉片を取り除きます。
➂脂を極力抜く
バケツの中に強力な洗剤を入れて、攪拌し元々皮が持っている脂(自脂)を取り除きます。鞣し剤である明礬が入り易くするためと、強い臭いをなくすためです。
水温は人間同様に皮ですので40℃ほどに温度にしてあげると良いです。脂が出やすいです。
革を作っている工場だと写真のような大きな洗濯機(ドラム)に皮と界面活性剤(洗剤)を投入し攪拌、脂抜きをします。
➃明礬鞣し
明礬を皮の重量に対して20%くらいあれば足ります。水は皮が浸る程度入れます。
食塩も重量の3%入れます。鹿皮は一枚3キロから4キロほどなので100gほどです。
厚手のビニール袋が使いやすいです。よく振って攪拌し皮の中に浸透させるようにします。
揉んだり、上下を入れ替えたりしながら1週間ほど鞣します。
袋の中に空気を入れないようにしてください。気温により腐敗する原因となるので。
➄鞣されているか確認する
1週間経ったら革の端を切り、60℃以上のお湯に入れます。
(ですが、ミョウバンの耐熱は75℃~85℃ほどといわれています。)
もし革が収縮したりしたら鞣しは不完全です。
収縮せずに柔らかいようでしたら明礬がしっかり入っています。
それが鞣し工程が上手くいった証拠となります。
➅水分を切る
確認がおわったら、余計な水分を抜くために袋から出し水切りをします。
1日ほど涼しい場所にて放置(夏場は冷蔵庫)。木に引っ掛ける程度で大丈夫。ですが、乾燥しすぎないように気をつけてください。
➆加脂とモミ作業
写真のように板に釘で貼り付けます。肉面側を出すようにしてください。
そして半日ほど日陰に置いておき、少し革を乾かします。
乾ききる前に革の肉面側に脂を入れます。
目的は柔らかくするため、残っている革(コラーゲン層)以外のモノが膠着しないようにするです。
こんな感じで刷毛で塗りました。
塗った後は脂がゆっくり革の内部に浸透していきます。
1日乾かします。
板から革を外しモミます。革の繊維をほぐし、柔らかくするためです。少し湿っている状態の方が作業しやすいです。(ヘラがけという作業になります。)
モミ加工が終わったら、2~3日乾かします。
➇ヤスリ掛け
布ヤスリの荒い番手のものを使い、革以外の余計なものを削り取ります。
そして少し細かい番手のヤスリで整えます。
➈完成
鹿革の明礬鞣しが出来上がりました。
今回は3枚製作しました。
知ってはいましたが、やってみるとなかなかに重労働だとわかりました。
一緒にヌートリアも出来ました。
ヌートリアの保存方法が乾皮の状態だったためにだいぶ手間がかかりました。
乾皮にするために時間がかかったためなのか、ボロボロになった部分もありました。
鹿皮を鞣すことが無事に出来ました。
おかげでまた違った目線で革製作に取り組むことが出来る気がいたしました。